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法の不知は許されない   

江戸時代の法
江戸時代を通じて実用された唯一の刑事法典が公事方御定書で、上巻は警察行政的法令81通を収めた法令集、下巻は刑罰・訴訟の先例・取極め(刑事法規)を整理・収録しており、一般に公布されておらず、江戸時代を通じて秘密法典でした。

現代の法
昨年の通常国会と臨時国会で成立した法だけで139あり、今年の通常国会はねじれ国会なので提案法律数と通過法律数は少ないですが、それでも83あります。
その中の一つが国税に関する「所得税等改正法」で改正条文新旧比較表の冊子のページ数は200ページです。
改正に伴う政令・省令の分量も同程度あります。
これらはすべて公表されており、手を尽くせば必ず入手できます。

法の不知
法は社会の強制力のあるルールであり規範です。
法によって人は死刑とされることもあり、税として財産を侵されることもあります。
そして、現代社会では国民は法を知っているというのが前提条件になっています。
その上で、「法の不知はこれを許さず」という法原則が存在します。
税務判決などでは、訴えた者の法の不知や誤解は、本人責任であり、救済すべき「やむを得ない事情」には該当しないとの文章をよく目にします。

法はいつから在ることになる
知る対象の法は、施行された時から、公布即施行のときは公布の時から、在ることになります。
公布の時とは、東京の官報販売所にて閲覧・購入できるようになった瞬間を指す、という最高裁判決があります。
今年の改正税法は、衆院で3分の2の再可決をしたのが4月30日午後4時44分でした。
その後、主任の国務大臣の署名及び内閣総理大臣が連署し、閣議決定を経て天皇に上奏され、御名御璽を賜って、そして官報に掲載という手順を踏んで公布即施行されたことになっています。
しかし官報はすでに印刷されていたとしても、30日の官報販売所の5時半閉店前に閲覧・購入できるようにすることが可能だったかは疑問です。



江戸時代 公事方御定書下巻は制定されても、公布はされなかった


【制定法律一覧】
確定申告書への記載不備の理由で「やむを得ない事情」とは?
審判所、法の不知や誤解は「やむを得ない事情」に該当せず
国税不服審判所は法人税の額から控除を受けるべき「みなし配当に係る所得税」について、別表六(一)における記載箇所がわからなかったために当該所得税額を記載しなかったとしても、請求人の責めに帰すべき事情に基づくものではないとはいえず、法人税法68条4項に規定する「やむを得ない事情」には当たらないとして請求人の主張を斥けた(平18.4.6裁決)。

http://houseikyoku.sangiin.go.jp/column/column020.htm
法律の公布・施行に関する事件
法律は、国会で制定され、天皇によって公布された後、その法律に定められた施行日から施行されます。その法律を施行するために特に準備や周知のための期間が必要ない場合や緊急を要する場合には、「この法律は、公布の日から施行する。」として即日施行を定めているものも多くあります。
この周知期間を置かなかったことが問題となった事件があります。昭和29年の「覚醒剤取締法の一部を改正する法律」は、同年6月12日に公布され、即日施行となっていました。
折しも、その日の午前9時ごろ、広島市内において、その改正法によってより重い罪となることになった行為をした人がいました。その裁判で、弁護人は、公布とは国民がその法律の内容を知りうる状態に置かれた時にあったというべきであり、当該法律の公布を記載した官報が広島市で一般に購入できたのは翌13日であるので、犯行時にはこの法律はまだ施行されている状態にはなかったとして、より軽い従前の刑罰が適用されるべきであると主張しました。
この裁判の上告審で、最高裁判所は、国民が官報を最初に閲覧・購入できる状態になった時に公布があったといえるとする判断を示して、本件の場合、それを東京の官報販売所において閲覧・購入ができた時刻である12日の午前8時30分としました。
(山本美樹/「立法と調査」NO.206・1998年7月)