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退職所得について(10年退職金事件を素材に)   

退職所得について(10年退職金事件を素材に)


退職所得とは「退職手当・一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与」をいいます(所得税法30条1項)。

通常「退職金」と称される収入は退職所得に該当します。

退職所得は、退職後の生活を保障する性質のものであり担税力が低いことから、他の所得に比べて課税上優遇されています。

退職所得該当性が問題になる事例は少ないのですが、退職金として支給された金額が退職所得か給与所得かが争われた事案があります(10年退職金事件)。


事案の概要は、以下のとおりです。

経営が厳しくなったX社が、高齢者に対する多額の給与負担を免れるために、労使双方の合意の下に勤続10年定年制を採用し(再雇用制度あり)、15名に退職金を支給しましたが、その内13名の従業員は再雇用(役職、給与、社会保険等はそのまま継続)されました。

税務署長は、X社に対して、従業員は退職していないのだから当該支給された退職金は給与所得に該当するとして給与所得に係る源泉徴収納付義務を告知すると共に不納付加算税の賦課決定処分を行いました。

これに対してX社は不服申立てを経て、処分の取消訴訟を提起しました。

最高裁判所は、以下の要旨のように、退職所得該当性を判断する一般的規範を論じた上で本件の退職金は給与所得であると結論付けました(最高裁昭和58年12月6日第三小法廷判決)。

ある金員が「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に該当するためには、

①退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること

②従来の継続的な勤務に対する報酬ないしその間の労務の対価の一部の後払いの性質を有すること

③一時金として支払われること

の要件を備えることが必要である。

また、「これらの性質を有する給与」に該当するというためには、それが形式的には上記の各要件を備えていなくても、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、課税上、上記「退職により一時に受ける給与」と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とする。

本件10年退職制度は、勤続満10年に達した従業員に退職金名義の金員を支給するための制度上の手当てとして設けられていたに過ぎず、したがって、上記定年制の下においては、従業員は勤続満10年で当然に退職することになるものではなく、むしろ従前の勤務関係をそのまま継続させることを予定し、当初からこのような運用を意図していたと見るのが相当である。

このような場合に、その勤務関係が勤続満10年に達した時点で終了したものであると見うるためには、上記制度の客観的な運用として、従業員が勤続満10年に達したときは退職するのを原則的取扱いとしていること、及び、現に存続している勤務関係が単なる従前の勤務関係の延長ではなく新たな雇用契約に基づくものであるという実質を有するものであること等を窺わせるような特段の事情が存することを必要とするものと言わなければならない。

本件の事実関係からは、直ちに、本件係争の退職金名義の金員の支給を受けた従業員らが勤続満10年に達した時点で退職しその勤務関係が終了したものと見ることはできないと言わなければならない。

とすれば、上記金員は、名称はともかく、その実質は勤務の継続中に受け取る金員の性質を有するものという他ないのであって、所得税法30条1項にいう「退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与」に当たるための3つの要件のうち「①退職すなわち勤務関係の終了によって初めて支給されること」の要件を欠くものと言わなければならない。


以上のように、最高裁は当該退職金について形式ではなくその実質を重視し、内容を詳細に検討しています。

本判例の退職給与該当性ついての規範部分は、判断基準として現在も重視されています。

同様の退職制度を検討される場合には所得税の課税関係に注意が必要です。